先日、ある会社の社長に同行してホームページ制作の相談に行った時のことです。
「どのようなイメージをご希望ですか?」
と先方から質問されたのですが、社長の頭の中にはコレといったイメージはなく、どちらかと言えば、
いくつか提案してもらった中から決めたい…
自分の会社のことを聞いてもらって、それにふさわしいイメージを教えて欲しい…
という感じ。
「わからない人間に対して、そんな質問しないで欲しい」と思ったようでした。
ホームページに限らず、世の中にはこのようなシーンをよく見かけます。顧客のニーズを聞いて、それに対して自社商品を提案しようとするスタイルです。
これは、お客様が自分の問題を正確に把握し、それに対する解決方法が明確な場合は良いのですが、お客様の認識と、本当に解決すべき問題点がずれていたり、その問題に対する解決策をそもそも知らなかったりする時は、このスタイルでは完全にマズいのです。顧客が抱える問題の原因は一つではなく複雑に絡んでいるケースも多く、顧客が口にする要求だけで商品やサービスを提案していては、本当の解決にならないことが多いからです。特に、この近年の経営環境の急速な変化は顧客自身にも問題把握を更に難しくしているのです。
今週のコラムは、今後、益々必要になる営業方法…顧客のニーズに耳を傾けるのではなく、自社が立てた仮説に基づいてこちら側から仕掛けていく営業…について書いてみました。
こちらから提案するスタイル(企画型)の営業は、営業に苦手意識があるとか、社内の営業方法がしっかりと体系化できていないなど、現在の営業体制に課題感を持つ社長は、「実際に何をどうすれば良いのか?」と疑問に思われるかもしれません。特に、これまで“待ち”の営業体制で、向こうから「こんなのお願いできますか?」と聞いてくれる〝ニーズありき〟の商談に慣れっこになっていると、こちらから提案していくスタイルに抵抗があったり、そもそも、自社が独自に考えた提案に顧客が興味を持ってくれるのだろうか…と疑問に思ったりする社長も多いかもしれません。
実際、私もその他大勢と同じような営業をしていた頃はそう思っていました。「顧客ニーズを無視した提案はただの押し売りだ」「営業マンの役割とは、顧客のニーズに沿った商品の提案をすることだ」と教育されていましたし、そのためのヒアリングスキルの向上には随分と力を入れていました。
しかしある時、「顧客は自分が何が欲しいのかわかっていない」と、ある勉強会で教えてもらい、目からウロコでした。その時の講師の先生は、「顧客は自分が欲しいものがわかっていない」ということをこんな風に例えていました。
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仮に、あなたがドラえもんだったとします。
ある日、のび太くんからこんな風に言われました。
「ドラエもん、虫歯になったから腕のいい歯医者さんを探して」と。
さて、あなたはどうしますか?
のび太くんが言う通りに腕のいい歯医者を探すでしょうか?
いいえ、そうはしないでしょう。
きっとあなたはポケットから「虫歯が治るガム」を出すのではありませんか?
そう、のび太くんは歯医者に行きたいわけではなく、虫歯を解決してほしいのです。
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つまり、「虫歯が治るガム」を知らない人にどれだけ丁寧にヒアリングをしても、相手がそれを注文してくることは無い、ということです。とてもわかりやすい例え話でしたので、私もたまにセミナーなどで使わせてもらっていますが、正にその通り。その存在を知らない人の口からそれが出てくることはないということです。
当時、他社との比較で負けてばかりだった火災保険の新規開拓の時、価格以外に顧客ニーズを満たせる方法は無いか?と考え、お客様にこんな質問を投げかけたことがあります。「火災保険に関して、何かお困りごとやご要望などはありますか?」と。
しかし、正直、火災保険にはあまり関心を持っていないという人が多く、「そうだな~、もう少し安くなると有難いかな」と返ってくるのが関の山でした。そこで、こんな提案を考えてみました。
「貴社の工場や機械など大切な資産が、今どれくらいあるのか…可視化しませんか?簿価ではなく実際の金額と、仮に新しいものを購入する時の金額がわかるような評価ブックをおつくりしますよ。その上で、御社にピッタリな火災保険を検討なさいませんか?」
と。
これは実際に私がやって非常に大きな成果を生んだ火災保険の営業方法です。
大きな工場がいくつもあったり、古くからの工場を増改築したり、自社の機械やリースの機械が混在したりしていて、正直、今の火災保険がどこまでいくら補償されているのかわからない…と感じている担当者がほとんどでした。特に、保険の担当は異動や退職などでコロコロかわることが多く、高い保険料を支払っている割には納得感を感じていない会社が多いなと感じていたので、自社の資産を可視化して評価したブックを作成し、その上で適正な火災保険の提案をするという手法です。
顧客にとっては、「言われてみればそんなのあったら良いかも」というサービスですが、絶対に顧客の口から出てくるニーズではありません。普段から、「自社の工場や機械の時価や新価(同じ構造や質・型などのものを再取得する時の額)を知りたい」と思っている人などほとんどいないでしょうし、そもそもそれを可視化するサービスがこの世の中にあることすら知らない人がほとんどなのですから。まさに「虫歯が治るガム」です。
人は、常にどこかで何かと比較したがる習慣を持っています。「この保険は他社よりも良い内容なのか?」「他にもっと安くて良い保険があるのではないか?」「もっと優れた保険担当者がいるのではないか?」…と。その時に、納得できる材料を多く提案できているほど、他社との無用な価格争いに巻き込まれずに済みます。あなたの会社の「虫歯が治るガム」は、顧客に提案できていますか?