「それは営業部の仕事でしょう」
「いやいや、そもそもそれは製造部がちゃんとやってくれていたら…」
このような会話、社内で聞かれたことはありませんか?
私は仕事柄多くの会社の経営会議や部長会などに参加させていただく機会がありますが、本当によく耳にします。しかも、大きな組織の大企業かと思えば、社員が100名に満たない中小企業でも決して珍しい事ではありません。組織が縦割りで各々の役割分担が明確になっている分、自部門の最適を考えて動こうとする意識が働いてしまうのでしょうね。このような状態が長く続くと、本来は顧客に向いていなければならない意識の矢印が社内に向いてしまい、本当に大切なお客様の声や望むものが見えなくなってしまうのです。
私がこれまで勤めてきた会社は、社員数が10名以下の小さな会社がほとんどでしたので、営業以外にも、来客対応や広報PR、労務管理、決算、社員教育、福利厚生など何でもこなしましたが、組織がしっかりした会社ほど分業化が進み、「自分の狭い範囲のことを深く知っている社員」が多くなります。言い換えると、自分の仕事の前工程や後工程の人たちがどんな仕事をしているのか知らない…という人たちです。会社が抱えるたいていの問題は個別組織の中で起きているというよりは、組織横断、組織間の連携のなかで起きているので、このような人たちばかりの組織では、もはやそのような視点で解決することは不可能になってきています。それが続いている間に、いつの間にか大切なことを見失ってしまうのです。
大切なことを見失う…といえば、私が長らくお世話になった保険業界でも昨年末に大きな事件がありました。お客様の大切なお金を営業職員がだまし取るという巨額詐欺事件です。今日のコラムは、その事件を思い出しながら、経営者が考えるべき本当に大切なことについて考えて行きたいと思います。
2020年10月、第一生命保険が公表した山口県の元営業職員(89歳)による約19億5,000万円というこれまで聞いたことのないような巨額の詐欺事件。その元営業職員は詐欺の疑いで書類送検されたそうですが、その後も、北海道や長野・和歌山などでも第一生命保険の元営業職員らによる詐欺事件が相次いで明らかになりました。「金銭的な優遇制度がある」などと持ちかけてお金を預かる典型的な詐欺のやり方だったそうですが、お客様からの絶大な信頼を逆手にとったあるまじき事件でしたね。
ここで問題になったのが、「訪問型の営業職員」というビジネスモデル。保険会社の営業職員は転勤が無く、長い時間をかけてお客様と信頼関係を構築することが可能なため、家族のことやお金のこと・身体のことなどセンシティブな情報に触れる仕事にはピッタリだというメリットがある反面、このような事件を引き起こすリスクを持つという一面を持ち、その信頼関係は長期に渡って不正がバレないという結果を生むことにもつながってしまいました。(北海道の事件は6年半、長野の事件は9年間、山口の事件はなんと18年間も不正が行われていたとか)よくぞここまで長い間お客様をだまし続けることができたものだと逆に感心してしまうほどです。
保険業界は、だいたい入社から3年~5年以内に8割ほどが辞めていくと言われていますが、反対にそれ以上生き残ることができれば、ある程度の顧客を抱え、そこからの見直しや紹介が生まれるという好循環サイクルが回り始めます。ここまでの道のりが思った以上に長く険しいのが現実です。だからこそ、ここを乗り越えて安定的に契約を生み出せる営業職員は社内でも大切に扱われ、高齢者であってもその居場所を確保することができるのです。
しかし、このようなベテラン社員が増えることは、今回のような事件を引き起こさないまでも、社内に少なからず弊害があるのも事実です。例えば、
「お客様が営業職員についてしまっていて、若手への引き継ぎがうまくできない」
とか…
「ベテランだし、契約はしっかりあげているし、でもその分、ちょっとモノを言いにくい雰囲気があるけど仕方ない」
とか…
「お客様との関係が深くなり過ぎて、他の社員が対応不可能になってしまう」
などです。
これは、保険会社に限った話ではなく、多くの企業が抱える問題でもあります。長く同じ人が同じポジションにいると、様々な行動や考えが習慣化され、固定化されます。それは、良い面もありますが、組織を硬直化させるという一面もあります。安定したポジションにいる人間は変化を嫌う傾向にあるし、今いるポジションを維持するために「大きな失敗をしたくない」という心理が働きます。すると、今までやってきたこと(過去に成功した方法、これまでうまくいったやり方・考え方)をベースにして物事を考えたり、新しいことに挑戦しなくなったりします。また、早く・確実に成果を出そうとするので、目先のことばかりを考えるようになり、中長期的な視点で物事を見たり考えたりすることができなくなってしまいます。
このような上司やベテランが組織の大事なポジションに居座っているままでは、会社の大きな成長は見込めません。社会の変化、お客様の状況やニーズの変化、社員の価値観の変化など、経営環境は大きく変わっており、過去の成功の中に答えは無く、常にお客様や社会全体を見渡しながら、新たな事に挑戦しながら自社なりの答えを見つけていくしかないのですから。
さて、皆様の会社の組織は硬直化していませんか?
社員が新しいことにどんどん挑戦していける土壌はありますか?
社員の視点は常にお客様の方向を見ていますか?
ちょっと怪しいな…とお感じになった貴方、ぜひ私にご相談ください。
事業発展の第一歩は、冷静に現状を知ることから始まります。