「今度、社内に子ども達の体験コーナーをつくろうと考えているんですよ」
先日、久しぶりにお会いした社長のひと言。金属製造会社で、医療機器や自動車の部品をつくっていらっしゃいますが、今後のことを考えると、今までと同じこと(従来のものづくりや決まった取引先への営業)だけやっていては先細りになってしまうので、ちょっと変わったことをやって行こうとお考えの様子です。社内の人手不足や、新たな市場の開拓を考えると、これからは「ものをつくる会社」とか、「営業をする部署」といった既成概念の垣根を壊して、「おもしろい」「楽しい」会社をつくる…という発想を持つことも必要です。
ここに一つ興味深いデータがあります。
総務省の統計によると、この20年間、営業マンの数が約100万人減少したそうです。その原因はいくつかありますが、中でもインターネットの普及が大きな要因の一つといわれています。例えば、わざわざ営業マンから高い手数料がかかる金融商品を買わなくても、自らネットで購入すれば格安な手数料で手に入れることができる…とか(商品は同じなので自分が負うリスクは同じ)、最近では、医薬品の販売もWEB上でできるらしく、そのサービスを活用するお医者さんも増えているそうです。個人的には、医薬品の営業=お医者さんの接待というイメージを持っていたのですが、そうでもなさそうです。保険業界でもネット契約がどんどん進み、反対に、GNP(義理・人情・プレゼント)と言われたひと昔前のスタンダードであるお願い営業は姿を消しつつあります。無理なノルマを達成するために顧客を騙したり不正を行ったりする大手保険会社の不祥事も相次ぎ、本来、人間が対応してくれることで得られるはずだった「安心」や「信頼」を逆に損なう出来事も後押ししているのかもしれません。
一方で、営業事務職に従事する人の数は大きく伸びているというデータもあります。営業職全体は減っているのに、なぜなのか?…それは足で稼ぐ従来の外回り営業よりも、内勤型の営業に力を入れている会社が増えているからだといわれています。確かに、ひと口に営業と言ってもやり方は何通りもあるので、必ずしも外回りだけに注力する必要はありません。むしろ、外回りができて、顧客と対面で商談やフォローができる人材はその業務に集中させ、それ以外の業務を社内の人間やシステムに任せるというのはこれからの営業に不可欠なやり方です。
営業職、事務職という垣根を越えて効率的な営業方法を考えるこの発想は、これまでのような、製造業、卸売業、小売業…といった業種の壁を壊すことにも通じます。
冒頭の会社のように、モノづくりやモノ販売を通して培ったノウハウを活かして顧客に提供できるサービスは何なのか?を考えることは、「モノ売り発想からサービス提供発想への転換」を実現し、今後の時代に必要な戦略となるのです。
例えば、ダイエットサプリを製造している会社を想像してください。
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女性にとってダイエットは永遠のテーマ、しかも、運動や食事制限など無しに手軽に痩せたいと考える人が多く、良いモノをつくっていれば売れた時代があった…。しかし、競合が後からどんどん増え、海外の商品も簡単に手に入るようになり、商品を作って売るだけでは新規顧客の獲得も既存顧客の囲い込みも厳しい時代になった。価格競争では大手には絶対にかなわない…。
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ダイエットサプリに限らず、今、このような厳しい状況に追い込まれる製造会社は多いのではないでしょうか。経営環境が大きく変化しているのは我々中小企業だけではなく、大手も生き残りをかけて必死です。自動車業界から寝具業界という全く違う分野に進出する大手企業や、町役場の入札に参戦する大手ゼネコンなど、今までは中小の主戦場だったところに大手がどんどん触手をのばしてきて、その資本力や知名度で、既存の市場をごそっとひっくり返す…ということを平気で仕掛けてきます。
そんな中で私たちが考えなければならないことは、広く浅く網を投げるのではなく、狭くても深く刺さる槍を持ち、熱烈なファンをつくることです。そのためには、商品をつくって売るだけではなく、それを体験してもらえる場の提供や、その体験をもっと進化させる商品開発の発想、そこに共感して自ら宣伝してくれるコアなファンをつくっていくことです。
以前、私の地元島根県の社長たち数名と一緒に岡山県倉敷市児島にあるジーンズメーカーを訪れたことがあります。このジーンズメーカーのK社長は、1970年に業界で初めてレディースジーンズのブランドを立ち上げたり、2003年に日本初のジーンズ資料館「ジーンズミュージアム」を建設したりと、業界では知らない人はいないという有名人ですが、以前から懇意にさせていただいていましたので、ぜひお会いしたいとおっしゃる社長たちをお連れしたのです。皆さん、ミュージアムを見学しながら「すごい!」「すごい!」の連発で、とても楽しい見学ツアーになりました。最後に意見交換会を催し、各自が抱える課題や、今後の展望などを話し合ったのですが、その時の会話がとても印象的で今でも私の心に残っています。
「このような立派な、しかも毎年大勢の人が訪れてくれるミュージアムはどうやったらできるでしょうか?」
と質問されたある社長に対して、K社長はこのように答えていらっしゃいました。
「皆さんの会社にも空いている部屋が1つくらいあるでしょう。そこをいつでも解放する!と決めて看板をつけて開けておくだけですよ。最初から立派なものを作ったって、どうせ誰も来やしないですから(笑)」と。
私たちが何かコトを起こそうとした時、常にかっこよく、完璧なものをつくろうとしてしまいがちですが、「サービス」は相手が喜んでくれることが何よりも大事です。相手とのコミュニケーションが、互いが望む心地よい(カンファタブル)空間を生み出すのです。
変化できる会社と変化できない会社の間にあるもの…それは、行動するかしないか、まずは一歩を踏み出すかどうかの違いだけ…私はそう思います。あなたの会社はいかがですか?