「新規プロジェクトを立ち上げて、そこでアルバイトを10名ほど採用したんですけど、“思っていた仕事と違いました”と、一か月も経たないうちに半分辞めてしまいましたよ」
…先日、ある幹部の方とお会いして出てきたお話です。早く人数を集めなきゃ…と思うあまりに、間口を広げ過ぎたのかも?とおっしゃっていました。よくあることですが、決して笑えないお話です。今、採用と教育に掛かるコストはどんどん高くなっていますものね。
また、別の会社ではこんなお話がありました。
「ウチの会社は色々取り扱っているので、まずはご相談ください…と、新人の営業マンが張り切ってくれているのは良いんだけど、何でもかんでも連れて来ちゃうもんだから、社内の人間が対応に苦労してるよ。」
…と。
どちらの会社も、“投げるボール”をミスしてしまった典型的なパターンですが、これが一時的なできごとなら問題もそう大きくはないでしょうが、社内全体が普段から大体にこんな感じだとしたら話は別です。自分の会社がどこを目指していて、どんな人材を必要としているのか?どんなお客様に出会いたいのか?を明確にしないまま、とりあえず広めにあれこれボールを投げてみて、反応があったらその時に考える…的なやり方では自社にとって本当に必要な「人」に出会えないからです。
「理想の顧客像を明確にしましょう」…私がコンサルタントとして活動しはじめた頃に、そう教えてくださった方がいました。どんな仕事をしているどんな性格の社長で、どんな会社(組織)をつくりたいと思っているのか?その社長に対して私に何ができるのか?を簡潔に伝えることができなければ契約なんてできませんよ…と。確かにおっしゃる通り。手あたり次第、相手が社長だからとコンサルティングを持ちかけても成立するはずもありませんし、仮に何かの間違いで契約したとしても、期待する効果が得られず、お互いに時間を無駄にするだけです。後になって心底腹落ちしましたが、やはり駆け出しの頃には何でも良いから契約が欲しい、と思ってしまって、「あれもできます、これもできます」とメニューをたくさん並べてしまっていたのです…残念なことに。
駆け出しの頃の失敗ついでにもう一つ。保険営業を始めたばかりの頃は、やはり契約なら何でも良いと思っていた時期がありました。法人の損保メインではあるけれど、個人の保険も良いですよ、生保もやっていますよ…的な感じです。当時を振り返ってみると、こんなエピソードがありました。
会社の新規営業施策として出した自動車保険の見直しDMを見て、連絡をくれたお客様がいらっしゃいました。それこそ新人で見込み案件が少なかった私が訪問することになり、早速、現在加入している保険証券を頂いて帰ることに…。会社に帰って見積りをつくって次回の面談にこぎつけました。ただ、面談は忙しい社長に代わって奥様が対応してくださっていましたので、当然即答はもらえず、「社長に聞いておきます」と言われて帰り、また別のプランをつくって欲しいと電話があって再度訪問する…みたいなことを繰り返していたと記憶しています。今思えば、随分とのんびりした営業ですが、それでも右も左も分からない私にとって、こんな案件でも藁にもすがる思いでした。
結局、このお客様は最後まで決まることなく流れてしまいました。当時の支店長には、「あんなのはドアノックなんだから、早く別の提案に切り替えれば良かったのに…」と言われ、ダブルで落ち込んだのを覚えています。
この失敗を現在の自分なりに分析すると、問題は2つあります。
1つ目は、当時、本当に売りたかった労災とか火災の保険ではなく、皆が感心を持つであろう自動車保険でDMを出したこと。いくら反応が多くあったとしても、本来の目的ではないボールを投げかければ違ったボールが返ってきて当然です。
そして2つ目は、直球ではないボールを投げておいてその対応に新人が行ってしまったこと。まともな商談もうまくできない新人に変化球の対応はなかなかハードルが高い…。それこそ力のある営業マンが行くべきですし、そもそも変化球を投げること自体が無謀だったかな、と。
ただ、こういう場当たり的な営業は意外に多くの会社で日常的に行なわれていて、「とりあえず見込を探そう」、「とりあえず何でも良いから契約を取ろう」、と考える会社は少なくありません。問題は、そうして集めた顧客を改めて振り返ってみた時に、お客様の層やその方々の価値観がバラバラであることです。
特に新規営業が難しい今のような時期こそ、自社にどういうお客様がいらっしゃるのか?が問われます。あなたの会社の理念に共感し、あなたの会社が生み出す商品やサービスが大好きで、あなたの会社がどんな未来に向かうのか?を一緒に楽しみにしてくれるようなお客様が一人でも多くいてくださると嬉しいですよね。そんな、自社のファンになってもらうためにも、まずは入口をしっかりと決めることです。
世の中には「何でもできます」をウリにしている会社は少なくありません。お客様のニーズに幅広く応えるために「ワンストップサービス」を目指す会社もありますが、まずやるべきは明確な入口の設計です。お客様や社員とのより良い関係づくりはそこから始まります。ぜひ、互いの成長につながる良いボールを相手のど真ん中に投げてください。