「これから自社で新商品を開発しようと考えているのですが、なかなか社内からアイディアが出てこなくて…。出したからといって全てが採用できるものでもありませんし、なるべく多くのアイディアを出すところから始めないと…。」
先日、久しぶりにお会いした社長がこんなお話をしてくださいました。
長年培ってきた技術や実績を基に、新しい商品を開発して新たな顧客を創造しようと考える社長は多くいらっしゃいます。特に、一つの事業や柱となる売りものだけではいざという時に不安だ…とか、既存の事業が安定しているうちに新たなことに挑戦したい…という声はよく耳にしますし、実際にやっておられる方にもよくお会いしますが、大変なのは開発ばかりでなく、その後の販売だったりします。
お客様のニーズにあった商品やサービスでないと売れないし、だからと言ってお客様の声にばかり耳を傾けていても良い商品が出来上がるワケでもない。ましてや売れるワケでもない…。難しいところですが、間違いなく言えることはお客様の顔が見えていないと開発も販売もうまくいかない、ということです。
ちなみに。
わが家の近くには高級レストランといわれるお店がたくさんあります。有名シェフが…とか、星がいくつとかいうお店です。一方で、ワンコインで食事ができる食堂やファミレスもあって、早くて安くて美味しいランチは忙しい私たちの心強い味方です。スーパーマーケットも同じように、こだわりの食材を揃えているお店と、安さと豊富な品数が自慢のお店があります。これらは各々、明確な顧客の設定が行われていて、並んでいる商品・売り方・接客方法が全く異なります。
このように、高付加価値な商品を販売するお店と安売りスーパーとでは売り方が全然違うことは消費者目線で考えれば簡単に理解できることなのですが、意外にも、自社のことになると分からなくなってしまうものです。…というよりも、今までのやり方・考え方から抜け出せず同じようにやってしまって失敗する会社が意外に多いのが現実です。
私がいた保険業界でもそうでした。
保険商品はどこで加入しても補償は変わらず、提供する保険会社が違っても内容に大差はありません。結果、保険料の安さで売り込むという売り方が定着しています。営業をする時にも、基本的には、
①どこの企業もだいたい保険には加入している(最低限必要だと思っている)
②どの企業も今より保険料が安くなる方が嬉しいと思っている
③補償内容がよくわからないのでどこでも同じだと思っている(だろう)
…といったことを前提において、より多くの企業にDMを出したりテレアポをしたりしてアプローチをしました。これは正に安売りスーパー的な売り方で、より多くの、より広い範囲に網を投げて、100に1社とか1,000に1社といった一定の確率で反応があれば良いな、という戦い方です。一般的な火災保険や自動車保険などがそのイメージです。
一方で、内容が専門的・保険料が高すぎるなどの理由から加入者が限定的な保険もあります。私が販売していたものでは、工場などの地震危険補償や利益保険などがそれにあたります。これらは、対象顧客が少ないため、その他大勢向けのチラシを撒いてもほとんど効果が無く、また、専門的な知識が必要なため誰にでも売れるものではありません。しかも、これを必要とするだろう企業(経営者)の考え方や価値観を想像し、そこに響く営業手法を考えていかなければ、「みんなに良いよ」というメッセージでは全く届かず、万人向けの言葉には興味を持ってもらえずに見込み顧客がまったくできない…という結果になってしまいます。このような補償を必要だと考える企業(経営者)は、「なぜ」「何のため」を重視します。そこに価値があると思えば、保険料のことなど二の次、三の次となるのが普通なのです。
しかし、現実には、一般的な火災保険の提案の延長で地震危険補償をすすめたり、特約としての利益保険を案内してしまったりしているケースが非常に多く、その価値を伝えきれずに無駄な提案で終わることになるのです。
さて、冒頭の新商品開発の会社に話を戻すと、自社の技術や実績を活かした商品開発のためのアイディア出しはもちろん大切ですが、その商品を開発するのは「なぜ」なのか?「誰のための商品」で、それは「何のため」なのか?を明文化しておく必要があります。高付加価値な商品やサービスであれば尚更です。これを真に届けたいと思う顧客の顔が見えてくれば、自ずと営業先や営業トークも変わってきます。
もちろん、事前に想定した通りに全てがうまくいくわけではありませんが、失敗する確率を少しでも低くするために、開発段階から既存顧客や知り合い、社内のネットワークなどの協力を得て試行錯誤を繰り返すわけです。ここで大切なのが人脈やネットワークの棚卸し。「自社の資産の棚卸し」というと、技術や設備・実績などの棚卸しを中心にやってしまっているところも少なくありませんが、人脈の棚卸しを忘れてはなりません。いくら素晴らしい商品を開発し完成させたとしても、それを広める道が無ければ本当に届けたい相手に届けられないからです。高額な広告費用の負担や、地道に広がるまで待てるほど体力に自信のある会社は良いですが、そうでない会社ほどここが重要なポイントになってきます。中小企業の新商品開発は、売れる道筋づくりとセットで考える必要があります。
さて、皆様の会社ではいかがですか?
自社の技術や強みを活かした新商品開発を考えている社長。その商品は“どこの”“誰の”ためのもので、それを世間に広めるための具体的な営業戦略は描けていますか?